おもちゃも家具も住宅も
木でできるもの
なんでもつくる
木は、生きている素材です。
幼いころ、家の居間にあったダイニングテーブルがパキっと割れるような音を立てて、驚いたことがありました。
気温や湿度など環境の変化によって、膨張と収縮を繰り返す木材。そのときに、音を立てることがあるといいます。
まるで呼吸をしているように、生活に馴染む。日々の汚れや傷さえも、使い手の歴史となり趣になる。木という素材の魅力だと思います。
国産の木材にこだわり、伝統的な木工技術を守り続けながらものづくりをしてきたのが、オークヴィレッジ株式会社です。今年で創業50周年を迎えます。
創業当時は特注家具工房としてスタートしましたが、現在は、木のおもちゃや文具、家具から住宅まで。自社で開発・設計・営業を行っています。
木という素材に興味がある人は、ぜひ読み進めてみてください。
東京・自由が丘。
渋谷から電車で約8分と、都心に位置しながら、まちの雰囲気は落ち着いている。駅前には多種多様なショップが軒を連ねる商店街があり、暮らしやすそう。
駅の出口から閑静な住宅街へと伸びるメープル通りの途中に、オークヴィレッジのショールームを見つけた。
お店から出てきて声をかけてくれたのが、首都圏営業セクションを統括している清川さん。
「私、初めましての人でも緊張しないんです。どんな人に来ていただけるかワクワクしていました」
穏やかな雰囲気と話しぶりに、自然と緊張がほぐれる。
幼いころから、木に興味があったという清川さん。
「昔、図書館で木工大辞典をなんとなく読んでいたんですよ。そしたら、オークヴィレッジが載っていたんです。日本の木を使い、伝統工法でおもちゃから建物までつくっている。そんな会社があるんだって」
「そのあと新聞に求人が載っていて。これを逃せばきっと一生後悔すると思って応募したんです。若かったですね(笑)」
家族にも背中を押され、無事内定。2001年に入社して、17年間制作部で働いた。
その後、関西での営業を経験したあと、首都圏セクションを任され今に至る。
「私たちは、木を使ってできるすべてのものづくりをする会社です」
オークヴィレッジは、木の文化を生活のなかに取り入れる「森と共生する暮らし」をテーマに、飛騨高山の地で1974年に創業した。
当時から大切にしている理念の一つが、『お椀から建物まで』。つくるものを限定せず、小物から家具、木造建築まで、木の全方位的なものづくりをしている。
国産の森林資源にこだわり、植樹活動にも長年取り組むことで、環境との共生を可能にしてきた。
「国産材を使用するうえで、木を余すことなく使い切る、適材適所の考えを大切にしています」
木目や色などの表情や強度など、樹種それぞれに特徴がある。
さらに一本の丸太から製材する際も、見極めが必要だという。
「木の違いは、外見だけでなく中身にもあるんです。硬さや木目の出方など、さまざまな違いで、各製品のどこの部材に適しているかを判断しています」
若く耐久性の高い木材は頑丈な椅子の脚に、年輪が刻まれた古木は木目を活かして食器棚の扉の鏡板に、端材は小物やおもちゃへ。素材を余すことなく使い切る。
オークヴィレッジは、お客さんに直接販売するショールームを東京に2店舗。大阪、高山に1店舗ずつ構えている。
高山に本社と工房があるオークヴィレッジにとって、首都圏での営業には大きな意味がある。
「当社にとって首都圏はまだまだ未開の地なんです。僕も高山に長い間住んでいたので、その商圏の大きさをより強く感じています」
「まちを見渡しても自然を見ることがあまりできません。ただ、日本の人口のうち2割が住んでいると言われている、大きな市場です。頭をつかってどう売り込んでいくか。チャレンジしがいが存分にあるところだと思います」
新しく入る人は、まず木に関することや、商品知識などを覚えるところからはじまる。
「つくるものが幅広いので、売り先もさまざまです。適切な商品の提案ができるようになれば、将来的には知識や経験を活かして新製品の立ち上げにもかかわることができますよ」
清川さんの隣で頷いていたのが、営業部と開発部を兼任している佐藤さん。
美術大学を卒業後、2017年に新卒で入社した。
オークヴィレッジを知ったきっかけは、『森のどうぶつみき』という、さまざまな樹種からつくられたおもちゃ。
積み木のモチーフは、日本の森にいる動物たち。木が育まれた森のことを、遊びながら身近に感じられるような工夫がなされている。
「こんなにおもしろいおもちゃを、どんな会社がつくっているんだろうと思いました」
入社後、卸の営業を担当しながら、商品知識やお客さまの声を活かして製品開発にも携わった。
完成した商品のひとつが、“どんぐりカードスタンド”。
「高山本社の敷地内にある、森の整備の過程で伐採した木を使用しているんです。社内で行なっている一連の流れを、分かりやすくお伝えできる例としてつくった商品です」
敷地の森を育てるために木を伐り、工房で加工し、販売する。さらに売り上げの一部は環境保全団体などに寄付することで、さらに森を元気にする。
オークヴィレッジが大切にする、循環型のものづくりを具現化した製品だ。
小さなどんぐりのかたちをしたカードスタンド。付属のパンフレットを開くと、お客さんの手元に届くまでの工程があたたかなタッチのイラストで紹介されている。企画からパンフレットデザインまで、佐藤さんが手がけた。
「よりたくさんの人に、木という素材のよさを知ってもらって、長く使っていただける製品を届けたいです。そのために、本当に些細なことからでも、できる限りのことをしていきたいと思っています」
製品に対する思い入れは、ものづくりを行う職人さんにも共通している。製品ができるまで、佐藤さんは高山の工房へ行き、職人さんとやりとりを重ねることも多い。
つくっている現場と、実際に使うお客さんの間に立つ。それぞれと距離が近いからこそ、感じることがあるという。
「職人のみなさんは、自分たちの仕事を伝えたいという気持ちの人が多いです。話を聞くうちに、製品一つひとつのクオリティが職人さんに支えられていることがわかって」
「ものを売るだけではない、つくるところから責任を持ち、かかわることで、製品の背景からお客さまに伝えることができる。職人さんたちの思いを引き継ぐように、高山と東京をつなげるということが、営業としての使命だと思っています」
ものづくりをする高山と、東京をつなげる。
そんな営業としてのやりがいを、日々実感しているのが、高橋さん。
大手総合電気メーカーで秘書やマーケティング部を経験。早期退職制度を利用して転職を決意し、2021年に入社した。
「退職を決める前に、自分のやりたいことをあらためてじっくりと考えたんです。小さいころから、夢中になり時間を忘れて没頭していたのが“間取り図”だったんです」
間取り図、ですか?
「小学生のとき、自宅の建て替えをしたんです。家の間取りを自分で考えるとか言って、描いたものを父と話している棟梁のところへ持って行って、チェックしてもらっていました(笑)」
「大人になっても、新聞広告にあるマンションの間取りを見て、生活動線とか、家具はどこに置くとか、つい考えてしまうんです。大学で東京に出たときも、気に入る間取りの賃貸物件を探すのに一苦労して。間取りやその空間をどうすると素敵になるか考えるのがずっと好きなんだって気づきました」
間取り図から想像するのは、こんなものがあったらいいなと思う理想的な暮らし。日々の暮らしに寄り添うような、家具やインテリアを扱う仕事を探し始めた。
自由が丘のインテリアショップを回っていたときにたまたま入ったのが、オークヴィレッジのショールーム。
「対応してくれた当時の店長さんの説明がやさしくて、一生懸命で。『木製品が本当に好きなんだろうな』と伝わる接客でした」
「製品にも心動かされたし、なにより接客にものすごく感動したんです。お店を出るときには、この会社に入ろうって決めていました」
数ヶ月間、木製品を扱うほかのお店でパートとして働きながら勉強して、オークヴィレッジの求人が出たタイミングで応募し、営業として無事採用された。
店舗がない地域や、まだオークヴィレッジを知らないお客さんへより広めるために、卸先を増やしていくのが営業の主な役割。
取引先は、町の家具屋さんや百貨店、おもちゃ屋さんやインテリア雑貨店のような実店舗のほか、オンラインショップや通販も含む。
高橋さんは、通販を主に担当している。
「通販によっても年齢層、性別といったターゲット層が異なるので、私たちの扱う製品との相性を見ながら、なにを提供すれば喜んでもらえるかを考えます」
子ども向けの商品が多いお店には木琴などの木のおもちゃを、アウトドアの会社には樹木のアロマオイルを染み込ませたおしぼりを。実際に使うお客さんまで想像を働かせながら、それぞれに合った提案をしていく。
実店舗やECサイトなど。媒体が変わっても、相手が何を求めているのかを想像して、提案に責任を持つことが大切。
お客さんの側から、製品を伝えていく立場になった高橋さん。
「毎日触れている製品でも、見るたびに『友人の赤ちゃんが生まれた記念に送りたいな』とか、よさをしみじみ感じていて」
「日々の積み重ねが会社への自信につながっているし、自分が心から好きだなと思える製品を扱う環境にいることはありがたいと思います」
最初に話を聞いた清川さんも、高橋さんの話に続ける。
「やっぱり当社の商品を広くたくさんの人に使っていただきたい。必ず満足いただけると思ってるので」
清川さんは、オークヴィレッジの机を自身のお子さんへプレゼントしたという。
「最近、子どもたちと一緒に机の手入れをしました。サンドペーパーをかけてオイルを塗ると、手入れ前よりも綺麗になる。そして使い込むほどに、木の表情がしっとりと浮かび上がります」
「そうすると、子どもたちは、木は使う人と一緒に育つものだと知ることができる。僕にとってこれ以上の喜びはないなと思いました。手入れをしていけば長く使えますよって、お客さまに言ってきたけど、自信を持って言っていいんだって気づけたんです」
木は生きている。
自然素材ゆえに不揃いで、時間経過とともに育ち、劣化もしていく。変わらないよさと変わっていくよさを備えたものです。
木と一緒に生きていく。
やさしく、誠実な想いが根付いた会社だと思いました。
(2023/08/17 取材 田辺宏太)